業務改善

労働時間を短縮するために必要なITツールとは?

現在、常態化している「長時間労働」にメスが入り始めています。これは、某大手広告代理店の過剰労働が問題視され大きく取り上げられたこともキッカケになっていると思います。なぜなら多くの企業で他人事とは言えないからです。

働き方改革が進められる中、長時間労働による様々な弊害が顕在化し、社会問題化しています。しかしながら、これまで「残業ありき」で運用されてきた業務がそう簡単に変わるわけではなく、簡単に労働時間・就業時間を短縮するだけでは、根本解決にならず、むしろ現場は疲弊してしまう可能性もあります。

そのため、労働時間短縮に成功している企業はまだ多くはないのが実情でしょう。そこにはいくつかの要因があります。

労働時間を短縮するといっても、それに応じてただちに業務量が減るわけではありません。社員の負担は次第に増え、結局は残業をしなければ業務が回らなくなります。とはいえ、昨今の人材不足の状況やコストの問題もあり、単純に人を増員することも現実的ではないでしょう。

本稿では、IT環境も踏まえて、労働時間の短縮を図りつつ生産性全体も向上させるのポイントについてご紹介します。

国別で見た、年間平均労働時間について

日本は先進国の中でも非常に生産性が低い国と言えるのではないでしょうか。OECD(経済協力開発機構)が行った調査によれば、日本人の平均年間労働時間は1,719時間。それに対してドイツの平均年間ロ労働時間は1,371時間、フランスは1,482時間、デンマークは1,475時間です。ドイツと比較すると日本人は43.5日間も多く働いていることになります。

一方、世界経済トップの米国はというと、平均労働時間は1,790時間で日本とほぼ同じ労働時間です。しかし、「なんだ、日本人はただの働き者じゃないか」と安心してはいけません。日本人一人あたりのGDP(1時間あたりの国内総生産)で見れば、米国よりも23.4ドル低い39.5ドルだからです。さらに、ドイツのGDPは59.5ドル、フランスは60.8ドル、デンマークは63.4ドルと軒並み日本よりも高い数値を持っています。

こういった数値で比較してしまうと、日本は世界的に見てもかなり生産性が低い国ということがわかります。そのため、日本企業の多くは、生産性を向上するための労働時間を短縮し、相対的に生産性を高めようとしています。

参考情報:OECD(経済協力開発機構)「Average annual hours actually worked per worker

なぜ日本人は労働時間が長い?

日本人の労働時間が長く、かつ生産性が低い理由はいくつか考えられます。

精神面や責任感などからも生産性は低下する

日本がバブル経済に沸いた1980年代後半から1990年代前半、多くの企業では業績向上のため、がむしゃらに仕事をする風潮がありました。事実「企業戦士」や「猛烈社員」という言葉が生まれるほどの状況で、社員は多くの時間を会社(就業時間)に割いていました。そのために業績が上がっていた事実も無視できません。

これは根性論など精神面に起因する要因で、周囲との競争意識や会社で成果をあげることが自分自身への評価と履き違えて、無理強いしてしまうことになります。

その後バブル経済が崩壊し、日本経済全体が不景気の煽りを受けると状況は一変します。コスト圧縮のための時短や採用を控えると言った人件費を抑制せざるをえなくなります。

この変化は、製造部門やシフト制の作業員は持つ部門では、生産量などに応じて稼働時間=労働時間を短縮することで、人件費などの固定費を抑えることを始めます。

一方で、営業や業務部門などいわゆるホワイトカラーと言われる部門は、新卒などの人員採用を抑えることだけで固定費をおさることとなり、完全なひとで不足が生じます。やるべき仕事は変わらないまま、人員が削減されたことにより、一人当たりの業務量は無尽蔵に増えていきました。

責任感を持った社員ほど仕事を抱え込み、やらなければならない事は時間を無視してもやり遂げると言った労働状況が生まれ、会社はそう言った社員に支えられ、なんとか業務を回している状況にあったと言えます。

サイロ化されたIT環境

日本では古くからOA業務のIT化が進んでいました。OA業務とは主にパソコンを使った事務作業であり、部署ごとに様々なOA業務があります。このOA業務を効率良く行うために導入されたのが、部門特化型のITシステムです。財務会計システムや人事管理システム、営業支援システムなど部門ごとに特化されたITシステムは、一見多大な恩恵をもたらしたかのように思えます。

実際にそれらのITシステムによって効率化された作業は多く、今では手作業のみで完結する業務の方が珍しい状況です。しかしこのことは部門単位の効率化は促進したのですが、新たに「ITシステムのサイロ化」という大きな問題をもたらしました。

特に、企業運営では事業部制や部門制などをとることが一般的で、部門ごとにシステムが最適化されると、横断的な業務プロセスやフローに弱く、システムとして機能できなくなる場合が多くあります。

また、同じような情報を各部門がそれぞれ保持しながら業務を行っていて、データをうまく共有することで効率化する箇所でも、それぞれが独自に最適化されていることにより、データ活用が徹底できないと言った課題に直面します。

このように、日本人の労働時間が長くかつ生産性が低い理由として、日本企業の風習や個人の仕事に対する意識、また旧来から使用しているOA業務システムやITインフラの老朽化などに起因している部分が多くあります。

失敗しない労働時間短縮のために

では、どのように労働時間の短縮に取り組めばいいのでしょうか。それは「時間短縮」ありきで考えるのではなく、「生産性向上」を起点に考えることです。

100の労働時間で100の生産性を得ている場合、労働時間を50まで下げると生産性も50まで低下します。これでは単に労働時間を短縮しただけで、企業としても社員としても成長にもつながりません。いかにして、50や70の時間で100のアウトプットを出せるのかという視点がなければ、生産性の向上は見込めません。

また、コストの削減と生産性向上を同軸で考えものでもありません。生産性が上がったから労働時間が短縮され「給与を下げても良い」となってしまっては、労働意欲が削がれてしまいます。

生産性や効率化に対してはシステム化や業務プロセスを見直すためのコンサルティングを行うなど、新たなコストが伴います。

そのためコスト削減効果よりも、生産性向上の効果=ROIを見極めながら判断する必要があります。

生産性を向上するためには

生産性を上げる方法として、工場などでは最新の生産設備を導入すれば飛躍的な生産性向上を達成できるかもしれません。しかしながら事務作業や判断が伴う業務ではそう言うわけにはいきません。単純な手作業であればRPA (ロボティック・プロセス・オートメーション)などのツールで作業を置き換えることができるかもしれませんが、それは局所的な効率化であり、「生産性」と言えるほどの効果を生むものではありません。そのためには計画的プロジェクトを進める必要があります。

対象範囲を正しく定める

権限の及ぶ範囲が対象範囲となることが多く、部門を横断する場合は、特定の権限を持たせ、各部門も協力する体制の構築が不可欠になります。

現状を正しく把握する

現在どのような課題や問題があり、それがどのような影響を及ぼしているか把握することで、対策方法や手段を具体的に検討することができます。
業務量の調査や業務プロセスの現状整理など、原点回帰した状況把握が結果的に生産性向上の近道になります。

取捨選択とコストの試算

二重入力など不要な手作業や形骸化した承認フローなどのプロセスはこの機会に切り捨てることも含めて見直しを行います。また、システム化による効果が見込まれる分野についてはコストを計上し見込まれる費用対効果についても試算しておきます。

優先事項の決定と予算措置

改善ポイントや対策が多数挙げられた場合、全て実施した場合と個別に実施した場合で効果が異なる場合があります。優先事項や対象範囲を見定めて実行計画に落とし込んでいきます。
出費が伴う施策はそのコストを試算し、出費が伴わないものでも、人手を介在する場合は、内部コストを算出し、業務として社員が対応するか外注することでコストを支払うか決定します。

まとめ

いかがでしょうか。労働時間の概念は徐々に変わりつつあり、時間や場所を問わず成果を中心に据える流れになってきています。このことが逆に「真の労働時間」を分かりにくくし、自己申告に依存してしまう点も否めません。

また、リモートワークなどが認められる部門と、オフィスや工場でないと仕事ができず、就労時間の概念に縛られたままの部門も存在するため、公正な制度やルールも必要になります。

そのため、まずは社内や自部門がどう言った状況にあり、何をするべきなのか整理するところから開始すると状況が見えてきます。特に前述したとおりほぼ全ての業務は何かしらシステムも使用していますから、業務やITの専門家に現状分析を実施してもらい、客観的な判断を手に入れることも有効です。

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