労働人口減少という深刻な社会構造の変化の中、企業は成長を求められています。その結果、企業や組織はこれまで以上の労働生産性の向上が強く求められています。他方、政府が主体となって推進している「働き方改革」では長時間労働の抑制や多様な働き方の受け入れなど、さらなる圧力がかかっています。ここではまさしく「人」の働き方の変化がポイントですが、それを支える人事や労務管理業務そのものも効率化が強く求められています。
人事や労務管理の業務は、まさに人を相手にすると同時に、様々な手続きなどの膨大な処理を必要とするのも事実です。特に人材の流動性が以前にも増して高まっている現在、入退社や異動など一年を通して忙殺されているケースも多いのではないでしょうか。
そのような人事業務の効率化の救世主として期待されているのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。パソコン上の操作によって行う定型業務ならば、RPAはそのほとんどを自動化し、ミスなく処理を高速に行います。
今回は、人事業務におけるRPAの活用例をご紹介すると共に、RPAの可能性について説明します。
RPAの導入効果とは?
改めてRPAの導入効果についてご紹介します。
RPAはロボティックとなっていますが、工場の生産ラインで働くロボットのように実体があるわけではなく、あくまでソフトウェアによるロボットです。サーバーやパソコンにRPAをインストールして、開発画面にてロボットを開発することで、定義したとおりに定型業務を自動的に処理してくれます。
ロボット分野といえば人工知能(AI)をイメージする方も多いでしょう。しかし、RPAと実行知能には明確な違いがあります。人工知能は開発者が与えたデータから規則性や法則を自ら学び(あるいは学ばせ)、ある事象に対する最適解を導き出すためのコンピューティングの仕組みです。
それに対してRPAは、あくまでユーザーが設定した処理内容に従って定型業務を自動処理し、業務の生産性を高めることができるソリューションです。もちろん人工知能とRPAを組み合わせることで、より複雑な判断を可能にするという製品も提供されつつありますが、基本的にはあくまで設定した通りの作業をひたすら実行するというタイプのソフトウェアです。
RPAの最大のメリットはやはり「作業時間を大幅に短縮できること」です。ルールと手順が明確かつ、繰り返し行われる定型業務ならばかなりの作業時間短縮を発揮するでしょう。
中でも人事や経理、総務といったいわゆるホワイトカラーでは繰り返しの定型業務が多く、特にRPA導入の効果が高い部門とされています。
加えてRPAは「離職」「サボり」といった労務管理上のリスクがありませんし、「ミス」もありません。RPAで開発したロボットは辞めず、ミスせず、そして休まず働くことができ、必要であれば24時間365日働き続けます。RPAを働かせ続けたとからいってブラック企業の烙印を押されることもありません。
人手不足が叫ばれている現在、人事が新規の採用をするのは一苦労であり、さらに採用に伴う事務手続きのためにさらに人を確保しなければいけないという悪循環は断ち切らなければなりません。人事、労務管理の分野では、まずは自らが効率化をする必要に迫られているのではないでしょうか。
RPAなら、人のための人を確保しなくても、事業のための人材を確保し適切な手続き等も滞ることなく進めてゆくことができます。まさに時代と日本のニーズに合致したITソリューションなのです。
人事業務でのRPA活用例
「RPAの作業量削減効果がどれくらいすごいか」というのをいくら力説されても、具体例が無ければ自社への適用もイメージしづらいでしょう。そこで、人事業務におけるRPA活用例を2つご紹介します。
活用例1.派遣社員の登録更新業務
とある大企業の人事部門では年間2,000人の派遣社員の契約しており、月末になると派遣社員の契約更新業務が発生します。契約更新のためには人事システムを利用していますが、その人事システムには契約更新機能が備わっていないため、人事担当者が契約更新する派遣社員の情報(氏名、契約期間、単価情報等)を一つひとつ手作業で入力していました。
年間2,000件以上も発生する契約更新業務は、月末の繁忙期と重なることも多く人事部門に多大な負担がのしかかっていました。
そこでこの企業は人事システムを刷新するのではなくRPAを導入することでこの問題に対応しています。前回契約と今回契約の情報際はRPAが確認し、差異がある場合のみ担当者に通知します。それ以外は自動的に契約更新業務を行い、その結果80%以上の作業量削減効果を生みました。
もちろん、RPAで業務を代行したことで入力ミスも無くなったので、手戻りが圧倒的に少なくなりこれも作業時間短縮に大きく寄与しています。
活用例2.業務委託社員の人事情報登録業務
業務委託社員の受け入れを行うにあたって入館カード発行や研修を実施する必要があります。そのためには、業務委託社員の基礎情報を人事システムに登録しなければなりません。別の企業ではこの作業が月に1回40時間の業務量が発生していました。
RPAを導入したこの企業が自動化した作業は「業務委託社員の各種情報が記載されたExcelを開く」「対象者の情報を人事システムに入力(転記)する」です。これまで手作業で行っていた2つの業務をRPAにて自動化したことで、月1回40時間発生していた業務量が13時間まで減少し、68%の工数削減効果を得ました。
皆さんは、「ファイルをダウンロードする」というたった1つの作業に、どれくらいのプロセスを有するかご存じでしょうか?細かく分けると、次のような手作業でのプロセスが必要です。
サイトへアクセス、ID・パスワードを入力、タスクボタンをクリック、ExcelのA列コピー、システムへ貼り付け、チェックボタンをクリック、検索ボタンをクリック、現地調査ボタンをクリック、ダウンロードボタンをクリック、保存ボタンをクリック、閉じるボタンをクリック、×ボタンをクリック、ダウンロードボタンをクリック、保存ボタンをクリック、閉じるボタンをクリック、×ボタンをクリック、タスク検索ボタンをクリック
このように「ファイルをダウンロードする」というたった1つの作業に対して述べ17ものプロセスが手作業で発生します。この作業をRPAで代行すると、ユーザーが行うことは「指定のフォルダにExcelを保存する」だけです。17あった手作業が1つに削減されます。
RPAはこうした作業時間削減を定型業務全体に適用できるため、大幅な労働生産性向上を実現するのです。
先述した活用例の他にも預金口座の登録や変更など、人手で行えば1件あたり10分もかかるような作業が、RPAなら1件あたり30秒に短縮できます。
また、入力や転記のミスなどもないため、速さと正確さを同時に実現でき、人事部の担当者は単純な手続き作業から解放されて、自社の人材を活かすための施策の検討など、本来の業務に専念することができるのです。
RPA活用で大切なこと
せっかく導入したRPAもその効果を最大限に引き出せなければ宝の持ち腐れです。そこで大切なことはまず、業務プロセスの可視化とマニュアル化を行って、RPAの適用範囲を広げることです。
RPAは先述の通りルールと手順が明確な定型作業ならばほとんど自動化できます。しかし企業の中には、マニュアルとしてルールと手順を明確にできるにもかかわらず、特定の従業員に属人化している業務が少なくありません。
そこで、RPAを適用できそうな定型業務のプロセスを可視化し、明確なマニュアルを作りましょう。そうすればRPA適用の範囲を少しずつ広げることができ、それに比例して作業時間短縮効果が高まっていきます。
もう一つ大切なことは、削減された時間で何をするか?を計画しておくことです。RPAは作業時間を短縮して終わりではなく、その時間を使って何をするかが重要です。人間から機械的な部分を取り除いてくれるのですから、RPAでは不可能な独創的で付加価値の高い仕事に注力すべきでしょう。
そうすることで、本当の意味で労働生産性が高まり、労働人口減少といった社会問題にも負けない企業体質作りができるでしょう。
RPAを使って、これまで多くの時間と労力を費やしてきた手続きなどの単純作業から解放され、これからより重要になる人材に向き合うための人事部門として組織の期待に応えられる基盤をぜひ作ってみてください。