日本国内ではまだまだ浸透していないビジネスプロセス管理(BPM)という業務改革手法は、実は数十年も前からその概念が誕生しています。
1993年に広く世界に浸透したビジネスプロセス再設計(BPR)が直接的な前身であり、さらにシックスシグマ、QC(品質管理)と遡っていくことができます。
概念自体は古くから存在しつつもBPMが現代において注目されている理由は、より最適化された業務改革手法であり、BPMソリューションも数多く提供されていることにあります。
BPR取り組みに成功した企業は多くありません。むしろ、大半の企業が取り組みに失敗しています。対してBPM取り組みに成功している企業は多く、そこにはやはり明確な理由が存在するのです。
今回はBPMの事例を中心に紹介しつつ、BPM成功の秘訣について解説します。
グローバルな業務標準化を目指した日産自動車
日産自動車が世界各国で自動車製造・販売を行い、世界有数の企業として事業展開しているのは誰もが知るところです。先進国・新興国を問わず経営拠点を持つ日産自動車にとって、製造・販売のビジネスモデルは世界共通でも、それを実現する方法は各国によって千差万別です。
部品調達やディーラーとの取引、販売の展開方法などは各国の慣行が関係してくるので、業務プロセスの標準化は非常に難しい課題でした。
また、グローバル展開する大企業ということもあり全ての業務を遂行するために1,000個にも及ぶアプリケーションが存在しています。
こうした複雑な業務環境は新たな製品展開や地域展開を行う上で、ビジネススピードを落とす大きな原因となっていました。しかし、各国の慣行に従わなければならない部分も多く、ベストプラクティスにもとづいた最大限の業務標準化は最重要課題の一つだったのです。
課題解決に向け日産自動車が取り組んだのがグローバル規模での業務標準化です。
まずは業務標準化を促進するためのフレームワークを作成し、全ての従業員が共通の言語や手法で業務標準化を行うための仕組みを用意しました。
また、各業務プロセスの統一性を持たせるためにも800にも及ぶ業務プロセスで同時に標準化を進めていきました。
結果、作成したフレームワークを新規事業拠点展開に活用することで、迅速な立ち上げを実現しています。
参考サイト:株式会社インプレス「BPM実践事例1:日産自動車~業務をいかに標準化するか」
様々な経営課題を少しずつ解決しているA社
消費者向け精密機械の製造・販売を行っているA社は、ここ10年ほどで急速なグローバル展開を行い、新興国を中心にビジネスを拡大しています。
急速な成長を続ける反面、生産管理システムや販売管理システムが日本とはバラバラで、情報が集約されていないので納期回答に時間がかかったり、製品在庫がわからないので在庫があるのに失注してしまったり、逆に過剰在庫を生んでしまったりと多くの課題を抱えていました。
そこでA社では業務プロセスモデリングを活用し、サプライチェーンにおけるプライマリプロセスと、各プライマリプロセスにあるビジネスプロセスを可視化し課題やプロジェクト目標とマッピングを行いました。
マッピングした情報を参照に優先度の高い課題を抽出し、優先度に応じて課題解決を実施したことで在庫の過不足を減少したり、進捗可視化を行ったりと「少しずつ」課題を経穴しています。
参考サイト:日本アイ・ビー・エム株式会社「BPM事例シリーズ: 第2回:サプライチェーンの効率化」
145の業務プロセスを15に削減した
米コロラド州で信託業務・管理業務を手掛ける大手企Lincoln Trust社は、BPM取り組みによって迅速なビジネスニーズ対応を実現しています。
個人の伝統的資産や代替資産、企業の退職金講座などを管理するLincoln Trust社では毎月10万件に及ぶ顧客から要望が寄せられます。課題は、業務プロセスに介在する紙ベースでの処理を効率化するという点にありました。
紙ベースによる処理で業務効率性を低下させてしまっているという企業は日本国内でも多いかと思います。Lincoln Trust社では書類を保管しているキャビネットの重みで床が抜けたことがある程、書類が増大した状態でした。
そんなLincoln Trust社ではまずIT部門と業務部門の責任者で合同運営委員会を設置し、さらに小規模なBPMチームを設置することで取り組みを進めていきました。
次に可能な限り紙ベースによる処理を削減するため全てのコンテンツを電子化し、システム化を推進しました。
結果、従来は145もあった業務プロセスを15に削減し、1年でROIを120%、顧客満足度を90%向上させることに成功しています。
参考サイト:株式会社 翔泳社
「海外企業の実例にみるプロセス変革への取り組み~BPMによって得られる成果とは?」
BPM成功の秘訣は?
今回紹介したBPM取り組み事例にもとづいて考えてみると、BPM成功の秘訣はそう多くはありません。全てが基本的なことでありそのポイントを如何に抑えられるかにかかっています。
少しずつ業務改革を行う
BPMの最終的な目標は全社的な業務改革ですが、いきなり大規模な改革を行う必要はありません。むしろ全社的な業務改革にいきなり取り組むことは非常にリスクが高く危険です。
BPRが浸透した時代では多くの企業が全社的な業務改革に挑んだことで失敗に終わっています。
会社全体の業務改革を一気に行うことで、まるでダイエットのリバウンドのように大きな反動が発生してしまいます。組織が急激な変化に対応できないことで、失敗する可能性が増大してしまうのです。
BPMは必ずスモールスタートで少しずつ業務改革を行うことが重要です。
フレームワークを用意する
どんな企業にも業務プロセスは複数存在しますが、それらにおいて統一性のある業務改革を行うためにはフレームワークが効果的です。日産自動車の事例のように言語や標準化の進め方を全社共通にするとBPMが促進します。
経営課題の優先度を考える
BPMへ取り組む際は必ず優先度の高い経営課題から取り組んでいきましょう。そこで培ったノウハウで徐々に拡大していきます。
取り組みに対するリスクを想定する
ただし、リスクの高い経営課題を最初に選ぶことはおすすめしません。何事も最初が肝心なように。BPMのスモールスタートで成功しなければBPMへの信頼性や組織からの協力を失う可能性がります。
IT部門と業務部門のコミュニケーション
BPMは単に業務プロセスをシステム化するという話ではないので、IT部門だけでプロジェクトを推進していくことはできません。業務部門も中心となって取り組む必要があるので、双方のコミュニケーションが非常に大切になります。
まとめ
企業がBPMによって得られる経営効果は多種多様です。一概に「こんな効果がある」とは言えないので、実際にBPM取り組みによる経営効果を測定する必要があります。今回紹介した事例を参考にしつつ、まずは自社におけるBPMの経営効果を測定してみてください。
その上でBPM取り組みを検討しても遅くはありませんし、確実な経営効果を得るためには重要なプロセスです。
BPMを実現する上ではBPMソリューションを選定することが重要ですが、それはまたの機会に紹介していきます。